真夜中プラトニック
 けれどその動きが、ピタリと止まる。


「……陽咲」


 ささやいた彼の手が、頬に触れた。

 ボロボロと涙をあふれさせる私を見て、朔夜さんが呆然としている。


「っふ、うぅ……っ」


 堪えきれず嗚咽が漏れた瞬間、彼が弾かれたように上半身を起こした。

 それまでの不穏な空気が一転、朔夜さんは慌てた様子で私の両手を固定していたタオルを外し始める。


「っごめん、陽咲……っ俺、どうかしてた」


 手の拘束を解いた後は、衣服の乱れを直してくれる。

 私がきょとんとしている間に、きっちりてっぺんまでルームウェアのファスナーも閉められた。


「朔夜さん……?」
「待って、何も言わないで……いや、言っていい、思いきり罵倒してくれ」


 ソファに腰かけながら頭を抱えてブツブツ言っている朔夜さんを、起き上がって思わずまじまじ見つめてしまう。

 朔夜さん……もう、怒ってない?


「あ、わ、私の方こそ、迂闊で、朔夜さんに不快な思いを……っ」
「いや、不快とかじゃなくて……」


 すっかり酔いも吹き飛びソファで土下座しそうな勢いの私に、何やら複雑な表情の朔夜さん。そのまままた頭を抱えてあーとかうーとか唸った後、彼は私に向き直った。


「こわい思いさせて、ごめん。もうしないから、陽咲も本当に、気をつけてくれ」
「……はい。ごめんなさい、朔夜さん」


 素直に謝ると、朔夜さんが困ったような顔で微笑みながらうなずく。

 ……好きな人に意識してもらおうと仕掛けた作戦は、大失敗で。

『もうしない』とまで言われてしまった私は心底落ち込みながら、それでも彼に触れられた箇所に灯ったままの熱に、いつまでも鼓動を速くしていたのだった。
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