真夜中プラトニック
「これから大変かもしれませんが、がんばってください」と当たり障りがないようでなんだか意味深な激励を残し、田宮さんは去って行った。

 玄関で見送って鍵をかけた後、私は朔夜さんのいる寝室に戻る。
 彼は寝苦しそうに眉根を寄せて目をつぶり、浅い呼吸を繰り返していた。

 どうしよう。このまま寝かせておいていいのかな。お水だけでも、飲ませておこうかな。

 床に落ちていたジャケットを拾い上げ、ハンガーにかけながら考える。

 お兄ちゃんの場合はお酒を飲んでもひたすら上機嫌になるだけで、飲み会の後もしっかり自分の足で帰ってきてシャワーを浴びて寝ていた。だから、泥酔した人の介抱に慣れていなくて不安になる。

 あ、ベルト……。思い至って、顔が熱くなった。

 スラックスのベルトがそのままじゃ、寝心地悪いよね。迷ったけれど、思いきって外して引き抜いた。朔夜さんが、眠っていて良かった……。

 すでにシャツのボタンは上からふたつ目まで外されているし、ネクタイもない。カバンの中かな、と先ほどパソコンデスクの上に置いておいたカバンにちらりと意識を向けつつ、ひとまず水を持って来ようと寝室を出た。


「朔夜さん。朔夜さん、お水、飲めますか?」


 水を入れたグラスをベッドボードに一旦置いてから、彼に声をかけた。

 小さく唸るも、目は開かない。少し迷った後、今度は軽く肩を揺すった。
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