エリート外交官は溢れる愛をもう隠さない~プラトニックな関係はここまでです~
「あの、朔夜さん」


 そこでふと、まぶたが薄く開く。

 ぼんやりとした朔夜さんと目が合って、私はホッと息を吐いた。


「朔夜さん」
「……ひさき?」
「はい、陽咲です。お水、飲めますか?」


 掠れた声に返事をして、ベッドボードのグラスを取ろうとした。

 けれどそれよりも早く、朔夜さんが私の方に手を伸ばす。


「わ……っ」


 彼の手が首のうしろに回って、強い力で引き寄せられた。

 不意打ちのことで、なすすべなく朔夜さんの上に倒れ込む。気づいたときには彼の肩口に顔を埋める体勢になっており、慌てて身を起こそうとした。


「さ、朔夜さん──」


 顔を少し上げたところで、彼と視線が交わる。

 とろりと蕩けた、熱っぽい、眼差しだった。彼の、初めて見るそんな目に、私は呼吸を忘れて魅入る。彼から香るアルコールの香りに、こちらまで酔った気になった。


「……ひさき」


 名前を呼ばれる。私の首のうしろに添えられたままだった彼の手に力がこもって、引き寄せられる。

 私は抵抗なんてしなくて、そうして、唇が重なった。さらに強くなる、アルコールの香り。
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