真夜中プラトニック
「ん……」



 触れ合わせるだけのキスを数秒した後、一度離れる。

 けれどまたすぐ唇がぶつかって、今度は擦り合わせるように角度が変わった。

 何度も、何度も、食むように味わわれる。


「ん、ふ……ぁ、」


 舌先で唇の合わせ目をなぞられたから、緩く口を開けた。すぐに朔夜さんの舌が私の口内に入ってきて、こちらの舌も絡め取られる。くちゅくちゅと、唾液が混ざる淫靡な音が響いた。

 私は目を閉じて、されるがままだ。それどころか朔夜さんのシャツの胸もとに縋りつき、もっととせがむ。
 彼に伝わったのか、さらにキスが激しくなった。


「は、あ……っん、さくや、さん……」


 いつの間にか彼と私の位置が入れ替わり、私は、ベッドに押し倒されている状態になっていた。

 朔夜さんが、唇を離す。私に馬乗りになってこちらを見下ろしながらぐいと濡れた口もとを手の甲で拭う仕草に壮絶な色気を感じ、苦しいほど胸が高鳴った。


「陽咲……」


 ささやきながら、彼の手が私の頬を撫でる。その瞳に宿る情欲の炎に、私の全身が歓喜する。


「朔夜さん」


 両手を伸ばして彼の顔を挟み、引き寄せて私の方から唇を奪った。

 朔夜さんも、抵抗しない。貪るようなキスを交わしながら、大きな手のひらが私のパジャマの裾から侵入し、肌を撫でる。

 うれしくて、どうにかなりそうだった。彼が酩酊して、前後不覚になっているとかどうでもいい。ただ、今彼が自分に触れたいと思ってくれていることが、泣きたくなるほどうれしかった。

 求められるまま、身体を差し出した。私も、思う存分彼に触れて求めた。


「かわいい……陽咲、かわいい」


 熱っぽく、何度もささやかれる。その度に私はときめいて、さらに身体が彼のすべてを敏感に受け止めていく。

 朔夜さん、好きです。大好きです。

 息もできないほどの快楽と幸福感に溺れながら、数えきれないくらい胸の中で唱えた。

 けれどその言葉は最後まで、口にはできなかった。
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