真夜中プラトニック
8.夜と朝
「──専務、聞いていますか?」
右隣の運転席からそこはかとなく呆れを含んだ声が聞こえて、助手席の俺はハッと我に返った。
「ああ。聞いてる」
「ならいいですが……最近、ぼんやりしていることが多いようなので。気をつけてくださいね」
「ハイハイ」
おまえは俺の保護者かと内心で思いつつ、素直に返事をしておく。
ハンドルを握って車を運転する田宮はチラッと一瞬こちらに視線を寄越し、すぐに前へと向き直った。
「まあ、どうせ陽咲さん絡みなんでしょうけど。とうとう手ぇ出した、もしくは出しかけて反省中ですか?」
「…………」
「上司の図星を的確に突いてしまった……」
押し黙った俺の反応で察した田宮がつぶやく。やめろそのわざとらしい憐れみの声音と表情。
たしかに俺は、酒を飲んでいつも以上に無防備になった陽咲を押し倒したあの夜からずっと、自己嫌悪に襲われている。
あのとき、陽咲にあそこまで気を許してもらえていることに対するうれしさと、本当に自分は彼にとって“男”ではないんだという事実を突きつけられたことがないまぜになって、頭の中がぐちゃぐちゃになった。
気づいたら、彼女をソファに押し倒していた。両手を拘束して抵抗されないようにして、無体を働こうとした。
彼女の涙を見て、なんとか押し留まったけれど……噛んでしまったし、キスマークも残した。
やわらかかった。白かった。いい匂いがした。彼女の肌の感触を知ってしまった俺は、今後もまた、同じことを繰り返すかもしれない。
そうしてしまう前に……なるべく早く、離れた方がいいんじゃないか。俺は、彼女のそばにいない方がいいんじゃないか。
あれからずっと同じことを考えて、けれども簡単には離してやれそうにない自分の執着心も自覚し、へこんでいる。