孤独な強面天才外科医は不自由な彼女を溺愛したい
「起きたか」

 ひっと息を飲み、恐る恐る振り返る。黒い革張りのソファに寝転がっていた白哉が、起き上がるところだった。

 扉の方からはソファの背もたれが死角になって、彼がいることに全く気付かなかったのだ。こちらを見るその顔は不愛想で、ちょっと怖い。

「助けていただきありがとうございました! 失礼します」

 慌てて頭を下げ、さっさとこの場所から立ち去ろうとした。ここはきっと、白哉(人殺し)の家。いるだけで、気分が悪くなる。

 白哉はのんびりと後頭部を掻きながら、あくびを零した。

「玄関、そっちじゃねーぞ」

 その声に身体が固まった。

「俺の家、山の斜面にあるからちょっと形状が特殊なの」

 白哉は手元にあった分厚い本をパタンと閉じた。
 その表紙は英文で何も読めないが、全身骨格が描かれているからおそらく医学書なのだろう。似たような本がソファの横にも、ローテーブルの横にも積まれている。

「まだ痛むか?」

 白哉の視線が、杏依の〝右腕〟に向いた。

「もう、平気です」

「そ」

 白哉の声が幾分柔らかい気がしたが、その顔はニコリとも笑わない。彼はそれだけ言うと、立ち上がり向こうの部屋へと身体を(ひるがえ)した。
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