孤独な強面天才外科医は不自由な彼女を溺愛したい
 なんであなたがそんな顔をするの? 弾けないようにしたのは、あなたでしょ。

 杏依は込み上げた何かを飲み込むように、奥歯を噛み締め左拳を握った。
 もし一パーセントでも腕が戻る可能性があるなら、やっぱり腕は切らなきゃ良かった。何度、そう思ったことか。

 コトン、という軽快な音に、はっとした。白哉が、キッチンカウンターにお皿を置いたのだ。

 黒大理石でできたカウンターに置かれた朝食は、二食分。白哉の顔は、もう元の無愛想なものに戻っていた。

「ほら、お前も」

 白哉がカウンター椅子の右側に腰掛ける。

「いえ、帰りますから」

「二人分作っちまったから」

 促され、けれど玄関の場所がわからない状態ではどうすることもできない。杏依は仕方なく、白哉の隣に腰を下ろした。
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