孤独な強面天才外科医は不自由な彼女を溺愛したい
 湯気の立つ和食の朝ごはん。昨夜から何も食べていないからか、匂いだけで杏依の口内は唾液が溢れた。

 右向きに置かれたお箸を、左手で取る。三年もこの暮らしをしていれば左手での箸の扱いは慣れたものだが、食器を持ち上げることはできない。

 普段はまるで犬のようにお皿に口元を近づけるが、外でそれをするのも憚られる。
 杏依はこぼさないよう細心の注意を払いながら、少しずつご飯を口に運んだ。

「あー、悪い。考えなしだったわ」

「お気遣いなく。むしろありがとうございます」

 見られていたことが気に食わない。白哉の声に素っ気無く返したけれど、彼の作ってくれた朝ごはんはとても美味しかった。
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