孤独な強面天才外科医は不自由な彼女を溺愛したい
 杏依の声が、静かなお屋敷内に響いた。
 こだまが消えて、杏依ははっとした。

 目の前の彼は、相変わらずこちらを見上げていた。
 けれど、先程まで杏依の心を読もうとしていた瞳は、まるでガラス玉になってしまったようにしゅんと下げられる。

「すみません」

 腕を切ることを選択したのは、自分だ。あの日、同意書にサインしたのは、他ならぬ杏依なのだ。

「そうだったな。悪い」

 そう言う白哉の声は、切なく苦しげで。俯いた彼の頭頂部は、頼りなく見えた。
 そんな彼は、杏依の頭の中にいる、威圧感のある強面のお医者様とは程遠い。

「じゃあ、俺が弾く」

「え……?」

 白哉はそう言うと、突然立ち上がった。

「聞いてくれるか? 先生」

 ダイニングを出ていく背中は振り返って、杏依に優しく微笑んだ。
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