孤独な強面天才外科医は不自由な彼女を溺愛したい
「これくらいしか(そら)で弾けないんだけど。どうだった、先生?」

 振り向いた彼は一瞬ギョッとした。
 けれどなぜか立ち上がり、こちらにゆっくりと歩いてくる。

 杏依は後退った。けれど、三歩で背中が壁に当たってしまった。

「ひどいです。全っ然ダメ。こんな演奏――」

 言いかけた所で、白哉の手が頭に乗った。大きくて暖かい右手。先程まで、メロディを奏でていた右手が。

 睨むように見上げた。〝人殺し〟からは想像できないほど、白哉は優しく微笑んでいた。
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