孤独な強面天才外科医は不自由な彼女を溺愛したい
 不意に白哉の胸ポケットが震えた。彼はちらりと画面を見る。

「悪い、オンコールだ」

「オンコール?」

「ああ。おそらく急患。行ってくる」

「え……?」

 杏依が瞬きをする間に、白哉はソファの傍らに置いてあった鞄を手に取り、リビングから上の階へ続く階段を駆け上がった。

「ピアノ、弾いていていいからな」

「だから、弾きません!」

「あとこれ!」

 階段の上から投げられたものを慌ててキャッチする。革のキーホルダーがついた鍵だった。

「それ、やる。気が済んだら帰れよ!」

「え、あの、ちょっと!」

 杏依の叫びも虚しく、白哉は階段の奥へと消えていく。ややあって重厚な扉の閉まる音がして、白哉が出て行ったのだと悟った。
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