孤独な強面天才外科医は不自由な彼女を溺愛したい
「もう、なんなの」
手元の鍵を覗きながら、ため息のようにそう零した。
最初から、玄関の場所を教えてくれればよかったのに。
「帰ろう」
杏依は顔を上げた。
ピアノが目に入った。先ほどまで白哉が弾いていたそれは、まだその響きを内包するように優しく、けれどやっぱりどこか寂しそうに佇んでいる。
弾かない。弾けない。弾いちゃいけない。
そう思うのに、杏依の身体はどうしてもピアノに吸い寄せられてしまう。
白鍵に指を乗せた。ポロン、と音が響く。その音は小さいのに、全部の弦に共鳴するように、ピアノ全体が叫んだ気がした。
――弾きたい。弾きたいよ、本当は。
杏依は何かに憑りつかれたように、ピアノ椅子に腰を下ろした。
左手を鍵盤に乗せ、先ほどまで白哉が弾いていた『別れの曲』を奏で始める。
左手だけだから、伴奏だけ。けれど、杏依の頭の中には、先ほどまで白哉が奏でていたメロディが流れていた。
手元の鍵を覗きながら、ため息のようにそう零した。
最初から、玄関の場所を教えてくれればよかったのに。
「帰ろう」
杏依は顔を上げた。
ピアノが目に入った。先ほどまで白哉が弾いていたそれは、まだその響きを内包するように優しく、けれどやっぱりどこか寂しそうに佇んでいる。
弾かない。弾けない。弾いちゃいけない。
そう思うのに、杏依の身体はどうしてもピアノに吸い寄せられてしまう。
白鍵に指を乗せた。ポロン、と音が響く。その音は小さいのに、全部の弦に共鳴するように、ピアノ全体が叫んだ気がした。
――弾きたい。弾きたいよ、本当は。
杏依は何かに憑りつかれたように、ピアノ椅子に腰を下ろした。
左手を鍵盤に乗せ、先ほどまで白哉が弾いていた『別れの曲』を奏で始める。
左手だけだから、伴奏だけ。けれど、杏依の頭の中には、先ほどまで白哉が奏でていたメロディが流れていた。