孤独な強面天才外科医は不自由な彼女を溺愛したい

3 謝罪のキス

 止まらない運指。虚しく響く旋律のない和音。
 けれど、まるで堰を切ったように指が動く。

 弾きたい。弾きたかった、でも弾けなかった。弾いちゃいけないと思ってた。

 三年間、胸の奥に押し込めていた想いを爆発させるように、気持ちのままに指を鍵盤に滑らせる。
 涙が溢れて止まらない。

 どのくらい経っただろう。
 何度目か最後まで弾ききったとき、背後から拍手が聞こえて、杏依はひっと肩を吊り上げた。

 慌てて振り返ると、階段の中ほどに白哉が立っていた。

「すみません、帰りますね」

 涙を左腕で拭い、慌てて立ち上がる。くるりと踵を返し、ピアノから大股で遠ざかった。

 けれど、階段を降りてきた白哉に腕を掴まれてしまった。
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