孤独な強面天才外科医は不自由な彼女を溺愛したい
「もっと、聞かせてくれよ」

「弾きません」

「弾きたいんだろ?」

「弾きたくなんかない!」

「弾いてただろ」

 言葉に詰まり、下唇をかんだ。溢れそうな涙を堪え、睨むように振り返る。
 白哉は真剣な顔で、じっとこちらを見ていた。

「……弾きたいですよ。弾いてたい。でも、私の奏でる音楽は、曲にはならないから。右手がないと――」

「俺がお前の右手になる」

「え……」

 杏依は白哉に腕を引かれ、ピアノの元に逆戻りした。

 ピアノ椅子に座らされると、白哉がその隣に詰めて座ってきた。彼の手がそっと白鍵に乗る。そして――

 ポロン。

 ――こぼされた音に、杏依は慌てて左手を添えた。
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