孤独な強面天才外科医は不自由な彼女を溺愛したい
 自然に紡がれ始めた『別れの曲』は、先ほどまで待ち望んでいた主旋律を奏でる。

 白哉の運指は、ムカつくくらい滑らか。強面な顔と大きな手からは想像できない、丁寧で繊細な音色。

 憎い相手と、連弾している。そんな最悪な状況に、杏依の胸は苦しくなった。

 けれど、左手は止まらない。止めたくない。
 白哉の奏でる音は杏依をリードするように、どんどんと前に進んでいく。

 突然和音が濁って、二人は手を止めた。ぴたりと、音が止んだ。

「悪い」

 間違えたのは白哉だった。
 思わず彼の顔を見た。間近で目が合った。

 その距離の近さに、胸が高鳴った。

 何で? 彼は自分を苦しめている〝人殺し〟なのに。

 おかしな鼓動の挙動に気がいってしまい、杏依は近づいてくる白哉の顔を避けられなかった。

 彼の唇が、静かに杏依の唇に重なった。杏依は動けなくなってしまった。
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