孤独な強面天才外科医は不自由な彼女を溺愛したい
 杏依の涙が止まった頃、白哉は抱擁を解いた。

「帰るだろ、送る」

「いえ、結構です」

 杏依は立ち上がり、目元を拭うと階段の方へ急いだ。すると、白哉は追いかけてくる。

「心配なんだよ。また痛みがぶり返してくるかもしれねーだろ」

 それを言われると弱い。痛みで気を失ったのなんて、初めてのことだったのだから。


 白哉に(いざな)われ、二階にある玄関を出て、驚いた。白哉の家は、幼い頃からよく見ていたお屋敷だったのだ。

 立地は久我総合病院のすぐ裏手。ここには、久我総合病院の経営者が住んでいると聞いていた。つまり、彼は久我総合病院の御曹司ということだ。

「この家か? 金余ってるからって、無駄にデカい家建てんなってのな」

 白哉は立ち尽くしていた杏依の腕を引いた。ガレージへ連れて行かれ、車の助手席に押し込められる。
 車に明るくない杏依でも一目で高級車だと分かるそれに、杏依は恐縮してしまった。

「家は?」

「駅の向こうの、県道沿いの――」

「了解」

 杏依が口をあんぐりと開けている間に、車はゆっくりと走り出した。
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