孤独な強面天才外科医は不自由な彼女を溺愛したい
 今日は土曜日。
 スカっと晴れた夏の空とは反対に、檜垣家にはなんとも言えない空気が漂っていた。

 昼食のパスタを家族で囲みながら、母が口を開く。

「白哉先生と、何があったの? 昨日はお友達と飲み会に行くって――」

「いろいろあって、助けてもらっただけ」

 パスタを頬張りながら告げると、父が眉毛を寄せる。

「いろいろって何だよ」

「ちょっと幻肢痛が酷くなって。たまたま居合わせた白哉先生が、助けてくれたの。家で休ませてくれただけ」

「本当にそれだけか? もう昼過ぎだぞ」

「それだけだよ」

 言えるわけがない。ピアノを弾かせてもらった、だなんて。ましてそれ以上のこと――。

「杏依、助けてもらったんでしょう。お礼、持っていきなさい」

「あー……、うん、そうだね」

 正直、白哉にはもう会いたくない。けれど、大人として感謝を伝えるべきではある。それに、鍵も返さなくてはならない。
 菓子折りでも渡しに行こう。
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