孤独な強面天才外科医は不自由な彼女を溺愛したい
 三年前。
 杏依は海原(うなばら)楽器の器楽教室で、ピアノ講師として働いていた。

 梅雨の半ば、雨の降る昼間のこと。
 いつものようにバイクで出勤していると、信号を無視して突っ込んできたトラックに横からぶつかられ、杏依の身体は宙に投げ出された。

 そこから先は、記憶がない。目が覚めたら、病院のベッドの上に寝ていた。

 生きている。そのことに安堵し、遅れて身体があちこち痛いことに気が付いた。

 いろんなところを打ったのだろう。軽い気持ちで、両手を掲げてみた。
 けれど、上がったのは左腕だけで、右腕はピクリとも動かなかった。包帯を巻かれ、そこにきちんとあるのに。

「あれ……?」

 何度も何度も動かそうと試みた。けれど、右腕は全く反応しない。
 ナースコールをし、駆け付けた看護師に右腕が動かないことを伝えた。

「トラックのタイヤ部分に巻き込まれていたみたいで、右腕は粉砕骨折されてるんですよ」

「粉砕骨折?」

 包帯を巻かれた右腕に視線を落とした。ドクリと、心臓が大きな音を立てる。

 けれど、右腕はここについている。いつか骨は治るんだから、大丈夫。そう、信じていた。
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