孤独な強面天才外科医は不自由な彼女を溺愛したい
 レントゲン室の奥の廊下を曲がった突き当りに、ガラス扉があった。碧人がそれを開くと、もわっとした湿気が肌にまとわりついた。

 碧人は「こっち」とだけ言って外へ出てゆく。杏依も続くと、聞こえていた蝉時雨が一層うるさくなった。

「ちょっと暑いけど、病院の敷地内で人が少なくて、外部の人も入れるのってここくらいしかないから」

 裏庭のようなこの場所には、ベンチが二つ置かれているだけ。
 芝が敷き詰められ、周りは木に覆われた、小さな休憩スペースのような場所だった。

「どうぞ」

 碧人に促され、ベンチに腰掛けた。木々が生い茂っているおかげでベンチは日陰になっていて、幾分暑さはマシだ。

「白哉、呼んだから。来るまでは、僕がお相手してあける」

 王子様然とした笑みを向けられ、杏依は戸惑った。

「お相手、とは……」

「聞きたいこと、あるでしょ。さっきの〝複雑な内情〟とか」

「訊いていいんですか?」

「君になら、話しても怒られないと思うから」

 碧人は一度スマホを確認してから、口を開いた。
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