孤独な強面天才外科医は不自由な彼女を溺愛したい
「君の執刀(オペ)の時のことはよく覚えてるよ。白哉が珍しく狼狽えていたからね。でも、結果的には君が腕を切る決断をしてくれて良かったと思ってる」

「え?」

「君の腕を残したとして、機能が元に戻る確率はほぼ(ゼロ)パーセント。あの時既に細菌感染も進行してたから、身体に悪影響を及ぼすのも時間の問題だったと思うし」

「そんな――」

 あの無愛想な顔の裏で、彼は狼狽えていた。
 当時は憎いとしか思わなかったけれど、彼のピアノを聴いて、幻のような謝罪を聞いて、それは事実かもしれないと今は思えてしまう。

「じゃあどうして、白哉先生は最初から私の腕を切らなかったんでしょうか?」

 その時、ガチャリと背後の扉が開いた。

「おい王子、急にこんなところに呼び出して――」

 目が合って、ぺこりとお辞儀をした。彼は苦虫を噛み潰したような顔をした。

「じゃあ、邪魔者は退散~。白哉、これで貸しひとつだからね。よろしく~」

 碧人が爽やかさを(まと)って去っていく。杏依は、白哉と二人きりになってしまった。
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