孤独な強面天才外科医は不自由な彼女を溺愛したい
 八月に行われる海原楽器音楽教室の器楽発表会で、杏依もチェロの演奏することが決まっている。
 今日は、その日のための練習。初めてのピアノとの合わせの日だ。

「よろしくお願いします」

 ピアノ奏者にペコリと頭を下げ、チェロと義手を準備し、早速合わせに入った。
 演奏する曲は子どもたちでも楽しめるようにと、アニメ映画のテーマソングを選んだ。

「檜垣さん、すごい! イイ感じ!」

「でしょ? 肩甲骨の動かし方で弓の角度が変えられるように、義手の調節してもらったの」

 右肩から取り付けた特注の義手では、人の手のように手首を動かすことはできない。
 人の腕の形を模しているが、杏依が動かせるのは腕の付け根周りの筋肉、とりわけ肩甲骨の辺りだけだ。

 弓を持ち、弦に滑らせてチェロを演奏できるのは、技師装具士との綿密なやりとりの成果なのだ。
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