孤独な強面天才外科医は不自由な彼女を溺愛したい
「へえ、すごい」

 義手に見惚れるピアノ奏者に、複雑な気持ちが募った。
 ピアノを弾けるあなたが、羨ましい。けれど、そんなことは言えない。

「次の合わせもよろしくお願いします!」

 ぺこりと頭を下げると、彼女は出て行った。杏依も義手を外してチェロを片付けると、通常業務へと戻った。


 ピアノ、弾きたいなあ。

 通常業務中は思わないことだが、久しぶりに他人が演奏しているところを見てしまったせいで、想いが募る。

 あの家でなら、弾ける。でも……――ううん、きっと彼なら。

 杏依は、仕事帰りに白哉の家へ向かうことを決めた。
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