孤独な強面天才外科医は不自由な彼女を溺愛したい
 夜の虫たちが鳴き出した白哉の家の前、杏依はインターフォンを押した。しばらくしても反応がなかったので、鍵を使って家の中へと入った。

 すぐに階段を降り、ピアノの前へと急ぐ。
 蓋を開け、キーカバーを外し、鍵盤に指をすべらせた。

 誰にも邪魔されない。杏依の音色が、夜のお屋敷に響く。

「来てたんだな」

 不意に背後から声を掛けられ、肩が震えた。演奏が止まってしまい、慌てて立ち上がり身体ごと振り返った。

「お邪魔してます。勝手にすみません」

「いや。なかなか来なかったから、心配してた」

 白哉はあの日、病院で話したときのように優しい笑みを浮かべていた。

 心配していた、とは。聞きたいけれど、聞きたくないような気もする。

 黙っていると、白哉がこちらに近づいてきた。
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