孤独な強面天才外科医は不自由な彼女を溺愛したい
 運ばれてきたコース料理は料理人の計らいなのか、全て片手で食べられるように配慮されていた。
 一口大に切られたパンを口に運びながら、杏依の胸に申し訳なさが募った。

 ゆっくりと過ぎていく時間。漆黒の海を見ながらの食事。

 とても美味しいけれど、食後のコーヒーが運ばれてきて、やっと肩の荷が下りた気がした。

「悪かった」

 食事中は一言も話さなかった白哉が、口を開いた。

「何がです?」

「外で食べるの、苦手だったんだな」

 申し訳なさそうに眉を顰める白哉に、杏依はふるふると首を横に振った。

「いえ、白哉先生は悪くないです。――むしろ、ごめんなさい。私が片腕だから、気を使わせてしまいました」

「気なんか遣ってねーよ。腕があろうかなかろうか、美味しく食べてもらいたいとシェフは思っているはずだし、彼らは給仕のプロだから、任せただけだ」

「でも、私の右腕がないことを伝えてくれたんですよね」

「伝えた。けれどそれは、周りに気を使わせるためじゃない。俺が、お前と食事を楽しみたかっただけだ」

 白哉の言葉に、杏依ははっとした。自分に対する申し訳なさばかりを優先して、ここに連れてきてくれた白哉のことを考えていなかった。

 白哉は、杏依との食事を楽しもうとしていたのに。
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