孤独な強面天才外科医は不自由な彼女を溺愛したい
「……すみません」

「美味かったか?」

「はい、とても」

 うまく笑えただろうか。ちょっと泣きそうだ。

「ありがとうございました。こんな素敵なディナー、生まれて初めてです」

 誰かに思われながら、過ごすひととき。食事の時間をそんな風に思ったのは、初めてだ。
 たかが食事、されど食事。まるでディナーデートみたいだとさえ思えてしまう。

「そ」

 白哉はコーヒーを運びながら、窓の外を眺めた。その端正な横顔の、口元と目元が優しく弧を描く。

 流れてゆくのは、静かな時間。面映ゆくて、くすぐったい。心地よくて、壊したくない。

 あんなに、憎んでいた人といるのに。この人のことを、あんなに恨んでいたのに。
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