孤独な強面天才外科医は不自由な彼女を溺愛したい

6 似合わない花束

「杏依先生、ここはもう大丈夫だから裏のセッティングお願い」

 発表会当日、元同僚の明美と受付業務をしていたが、一部が始まると明美は杏依の背中を押した。

 発表会は二部制で、一部は小学校低学年までの子どもたち、二部は高学年より上、大人までのレッスン受講者が練習成果を披露する。

 杏依の出番は二部のラストだ。白哉にはおおよその時間も伝えていた。

 本当に、来てくれるのかな。

 発表会のホストである海原楽器の社員ゆえ、受付業務が始まればスマホを見る時間などない。
 今から裏――すなわち地下に移動してしまえば、電波も届かない。

 朝から不安と期待の入り混じったドキドキに胸を占拠されている。

 杏依はまだ姿を見ていない白哉に思いを馳せながら、地下の器楽控室へと向かった。
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