孤独な強面天才外科医は不自由な彼女を溺愛したい
「整形外科医の、久我上白哉です」

 救急で運ばれた杏依の手術を行ったという彼は、思っていたよりもずっと若い。後で聞いた話だが、彼は当時三十三歳だそう。

 眉目秀麗ながらも冷たそうな顔つきの彼は、周りを黙らせるような威圧的オーラを孕みながら、静かに低い声で杏依に告げた。

「単刀直入に言います。その右腕、切ったほうがいい」

「え……」

 言葉を失った。治ると信じて、あの痛みに耐えてきたのに。切るって――

「このまま残しても、右腕の機能低下は免れません。使い物にならなくなる可能性が極めて高い」

「じゃあ、なんで残したんですか!」

 まだ力の入らない、けれど感覚だけは確かにある右腕を、思わず左手でかばった。この腕が無くなったら、ピアノが弾けなくなってしまう。

 白哉は何も言わずにこちらを睨む。そんな空気を緩めようとしたのか、母が慌てたように口を開いた。

「お母さんが頼んだの。できるだけ、腕は残して欲しいって。杏依がまたピアノを弾けるようにって――」

 言いかけた言葉を、白哉が手で遮った。

「右腕を切らないと最初に判断したのは私です。ですが、事態が変わった。切った方がいい。残したとしても、飾りにしかならない」

「飾りって――」

 それは、切っても切らなくても右腕が使えなくなる、ということを示唆している。
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