孤独な強面天才外科医は不自由な彼女を溺愛したい
「あのさ、杏依先生。彼さ――」

「何?」

 視線を明美に戻すと、彼女は神妙な表情で杏依の瞳を覗き込む。それから、杏依の耳元に口を近づけ声を潜めた。

「――さっき大熊さんの奥さんに『人殺し』って呼ばれてたんだけど。杏依先生、何か知ってる?」

「え?」

 天才と称されながら、若くして事故で命を失ったピアニスト・大熊肇の娘が海原楽器の器楽教室へ通い出したということは、社内中のニュースになっていたから杏依も知っている。
 今日、一部の演奏会で演奏を披露していたはずだ。

 そんな大熊氏の奥さんが、白哉に『人殺し』――?

「大熊肇って、交通事故で亡くなったんだよね?」

「あー……、うん、そうだね」

 六年前、音楽業界に衝撃を与えた事故。その事故に、白哉が関わっているのかもしれない。

 もしかして、本当は医療事故だった、とか……?

 杏依の心は、途端にざわつき始めた。
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