孤独な強面天才外科医は不自由な彼女を溺愛したい
 片づけを終えてスマホを見ると、白哉から連絡が入っていた。

『仕事に戻らなきゃいけなくなった。演奏聞けなくて悪い』

 今頃は白哉と一緒に帰っていると思っていた。けれど、仕事なら仕方ない。

 大熊氏のことが気になり、今更打ち上げに参加する気にもなれず、杏依は一人、花束を抱えながらとぼとぼと夜道を歩いて帰宅した。

 〝人殺し〟というのは、あの高飛車な態度のせいだと思っていた。彼の職業上、腕や足を切られて、逆恨みする人は少なくないだろう。杏依もそうだった。
 けれど、本当に人を殺していたかもしれない、なんて。

 ピンク色の花束を自宅で活けながら、白哉のことを考えた。

 スマホで大熊氏の事故のことも調べた。けれど、出てくるのは交通事故の記事ばかり。
 加害者も、もちろん白哉ではない。

 それなのに、〝人殺し〟ってどういうこと?

 今すぐに会いに行きたい。けれど、彼は仕事中。それに、これは自分が踏み込んでいいことなのだろうか。

 杏依は結局何もできぬまま、モヤモヤとした夜を過ごした。
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