孤独な強面天才外科医は不自由な彼女を溺愛したい
7 優しすぎる〝人殺し〟
モヤモヤとした気持ちを抱えたまま、翌出勤日を迎えた。
いつものように受付事務をしていると、外線で電話がかかってきた。
教室への連絡なら各教室が窓口になっているはずだ。本社に電話だなんて珍しい。何か取引の電話かな、など思いながら、杏依は受話器を取った。
「お電話ありがとうございます、海原楽器――」
『海原楽器さんよね。私、大熊翠の母――大熊肇の妻でございます』
わざわざ故人の名前を出してくる電話主に、杏依の心臓はドクドクと厭な音を立てはじめた。
努めて冷静に、ゆっくりと声を紡ぎ出す。
「ご用件は――」
『この間の発表会でね、信じられない人と遭遇しましたの。あの日、あの場所で『人殺し』と叫んでしまったことをお詫びしたくて。でも、彼は人殺しなんです。私が身ごもっている時に、旦那はあの人に殺されたのよ』
「『あの人』というのは」
『ああ、ごめんなさいね。名前を言うのも嫌で、つい。久我総合病院の、久我上白哉っていう、整形外科の医者よ。あの病院、かからないほうがいいですよ』
嫌味たっぷりな言い方に、杏依は胸が押しつぶされそうになった。
いつものように受付事務をしていると、外線で電話がかかってきた。
教室への連絡なら各教室が窓口になっているはずだ。本社に電話だなんて珍しい。何か取引の電話かな、など思いながら、杏依は受話器を取った。
「お電話ありがとうございます、海原楽器――」
『海原楽器さんよね。私、大熊翠の母――大熊肇の妻でございます』
わざわざ故人の名前を出してくる電話主に、杏依の心臓はドクドクと厭な音を立てはじめた。
努めて冷静に、ゆっくりと声を紡ぎ出す。
「ご用件は――」
『この間の発表会でね、信じられない人と遭遇しましたの。あの日、あの場所で『人殺し』と叫んでしまったことをお詫びしたくて。でも、彼は人殺しなんです。私が身ごもっている時に、旦那はあの人に殺されたのよ』
「『あの人』というのは」
『ああ、ごめんなさいね。名前を言うのも嫌で、つい。久我総合病院の、久我上白哉っていう、整形外科の医者よ。あの病院、かからないほうがいいですよ』
嫌味たっぷりな言い方に、杏依は胸が押しつぶされそうになった。