孤独な強面天才外科医は不自由な彼女を溺愛したい
「すみません」

 聞き覚えのある声に、杏依は顔を上げた。険しい顔をした白哉が、スーツを着てそこに立っていた。

「白哉先生……」

 驚き目を見開き、杏依は息を飲んだ。

「先日のお詫びに伺いました、久我上白哉です」

 ビジネスライクに頭を下げられ、杏依も慌てて頭を下げた。隣で、同僚が受付の名簿を開いている。

「十五時にご来社予定の久我上様ですね、ご案内いたします」

 彼は同僚に連れられて、我が社の受付を通り過ぎてゆく。

「あの!」

 去って行こうとする二人に、思わず声を上げた。

「先日のお詫びと言うのは――」

「演奏会の時に、私のせいで一部の方に不快な気分をさせてしまったので」

 だったら、その原因の一端は杏依にもあるはずだ。そう思うのに、白哉はくるりを背を向け行ってしまう。

 杏依はそこに立ちつくしたまま、何もできないことに悔しさを感じていた。
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