孤独な強面天才外科医は不自由な彼女を溺愛したい
「せっかく助かったのに自殺した、なんて知れたら世間体が悪いから。大熊氏側からの要望で、病院はそのことを黙ってる。
 だから世間的には『大熊肇は事故死』で(かた)がついているんだ。けど、あの奥さんだけは俺を『人殺し』って呼び続けてな」

「え、そんなの――」

 逆恨みじゃないですか。言おうとして、言えなくなった。自分も同じだ。杏依も、彼を〝人殺し〟だと決めつけて、助けてくれたのに逆恨みをしていたのだ。

 黙っていると、白哉は続けた。

「当時、彼女はお腹に娘がいたんだ。だから、一人でこの子を抱えて生きて行かなきゃいけないのは俺のせいだって、院内で会うたびに盛大に『人殺し』って罵られた。
 それで、噂が独り歩きして、今じゃ誰もが俺を〝人殺し〟って呼ぶようになった」

「白哉先生は何も悪くないじゃないですか。助けたんですよね、大熊さんのこと」

 白哉は言葉につまったように、黙った。それから、静かに首を振った。

「いや、結果的に生き地獄を作っちまった俺が、彼を殺してしまったようなもんだ。『死んだ方がマシ』って、思わせちまったんだから」
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