孤独な強面天才外科医は不自由な彼女を溺愛したい
「もしかして、私の腕を切るのを躊躇ったっていうのも――」

「ああ」

 白哉はため息を飲み込んだみたいな顔をして、こちらを見ずに口を開く。

「怖かったんだ、お前がピアノ講師だって聞いて。結果、お前を苦しめた。希望を持たせるだけ持たせて、結局ピアノを弾けなくさせちまった」

 杏依は何も言えなくなってしまった。

『誰のせいでピアノが弾けなくなったと思ってるんですか!』

 そう叫んでしまった時、彼がひどく傷ついたような顔をしていたのは、そういうことだったんだ。

「……でも、あなたが救ってくれたから。だから、私は今こうやって生きてるんです」

 思わず言葉に力を込めた。

 白哉が命を救ってくれたことに変わりはない。今自分がここにこうしていられるのは、間違いなく彼のおかげなのだ。
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