孤独な強面天才外科医は不自由な彼女を溺愛したい
 白哉はちらりとこちらに視線を向けた。その瞳が、とても優しく揺れている気がして、杏依の鼓動はドクドクから、ドキドキというものに変わった。

「そうだな。だから、お前が生きていてくれて、俺は嬉しい。お前が新しい楽器に挑戦して、人生から逃げずに生きてくれていることが、すごく嬉しいんだ」

「……私、いろいろと酷いこと言いましたよね。ごめんなさい」

 杏依は顔を伏せた。

「私、あなたを腕を奪った〝人殺し〟だと恨んで、ピアノを弾けなくなったのはあなたのせいだって押し付けて。そうやって、心を保って生きていました」

「いいんだ。誰も悪くない中で産まれた憎しみも、誰かにぶつけねーと生きていけねーだろ。俺が〝人殺し〟になることで、患者が救われるならそれでいい」

 呟くように告げられたその言葉に、杏依ははっと彼の方を向いた。

「俺が整形外科医でありつづけるのは、あの日の償いのためだ。誰か一人でも多くの命を助ける。恨まれても、構わない。俺はもう、誰も死なせたくない」
< 69 / 85 >

この作品をシェア

pagetop