孤独な強面天才外科医は不自由な彼女を溺愛したい

　やっぱり、そうだったんだ。彼は〝人殺し〟なんかじゃない。
　それどころか、患者を救いたいって想いで、自ら〝人殺し〟という憎まれ役を演じていたんだ。

「本当は、あなたはすごく、優しい人――」

　白哉の横顔を見つめた。悲しくて、けれどとても優しい顔をして、じっと前を見据えている。

　彼の視線は、前を行く車よりも、もっともっと遠くを見ているような気がした。彼の目に映っているのは、きっと、彼が今まで助けた、救った患者たちだ。

　赤信号で車が停まる。不意に、杏依の頭の上に、大きな手が伸びてきた。

「俺は、どこまでも前を向く、お前が好きだ」

　優しく髪を撫でられ、杏依の心は震えた。告げられた言葉に、思わず涙が込み上げた。

「何で泣くんだよ」

「だって、私を好きだって……嬉しいじゃないですか」

「そ」

　信号が青に変わり、白哉は手をステアリングに戻した。車は県道沿いを進む。もうすぐ、杏依の家に着いてしまう。

「ありがとな、聞いてくれて」

「いえ……あの」

「何？」

「もう少し、そばにいても……いい、ですか？」

　涙を拭いながら伝えると、白哉は驚いた顔をして。それから、「ああ」と一度緩めたスピードを、再び加速させ始めた。