孤独な強面天才外科医は不自由な彼女を溺愛したい

8 愛しくて、守りたい人

 車が白哉の家に着くころには、日がすっかり暮れていた。

 ガレージの扉が自動で開き、吸い込まれるように入庫した車はやがて停まる。
 ドアを開けると、月明りに照らされた静かな夜の中、チリチリと足元で虫たちが鳴いていた。

 杏依の胸はドクドクと大きく鳴っていた。「もう少しそばにいたい」だなんて、我ながら大胆なことを言ってしまった。しかも、彼に想いを告げられた後に、だ。

 けれど、車に乗る前まで感じていた鼓動のリズムとはぜんぜん違う。ドキドキするなら、こっちの方が断然いい。杏依は胸に手を当て、深呼吸をした。

「何やってんの?」

「わあ!」

 心臓が止まるかと思った。白哉がドアから身を乗り出して、杏依の顔を覗いてきたのだ。

 優しい笑顔。これが、〝人殺し〟な彼の、本当の姿。それを知った今、杏依の胸の中は愛しさで溢れていた。
< 71 / 85 >

この作品をシェア

pagetop