孤独な強面天才外科医は不自由な彼女を溺愛したい
 玄関の鍵を開けていると、不意に視線を感じた。もう電話、終わったのかなと、振り返る。

「あ……」

 そこにいたのは白哉ではなかった。
 エントランスの明かりに照らされて立っているのは、小柄な女性。その顔は、とても驚いている。

「あなた、海原楽器のチェロの――」

 その声に聞き覚えがあり、杏依は慌ててペコリと頭を下げた。同時に、胸がドクリと厭な音を立てる。

 そこにいたのは、大熊氏の奥さんだったのだ。

 彼女が杏依を知っているのには心当たりがある。音楽教室には演奏会のポスターが貼ってあったからだ。
 『義手のチェリスト』である杏依の演奏もぜひ聞いて欲しいと、顔写真付きで載っていたのだ。

「何であなたがここにいるの?」

 それは、こちらが聞きたい。一体、白哉に何の用だろうか。そもそも、何で彼女がの門の中にいるのだろうか。

 けれど、家主(白哉)がここにいない状況で、何も聞くことはできない。
< 73 / 85 >

この作品をシェア

pagetop