孤独な強面天才外科医は不自由な彼女を溺愛したい
 ナイフだ、と気づいた時には、振り落とされていた。思わずぎゅっと目をつぶる。

 死ぬ!

 けれど、いつまでもその衝撃は来ない。そっと目を開ける。
 見えたのは、杏依を庇うように包み込む、大きな左腕。ナイフが刺さり、血が垂れている。

「いってぇ……」

 白哉、先生……?

 驚きすぎて声が出ない。
 見上げると、苦しそうに顔を歪める、愛しい人の顔があった。

 視線を動かせば、犯人は腰を抜かして座り込み、青ざめた顔で固まっている。

「私は……私は悪くない! 悪いのは、主人を殺したあなたよ!」

 ヒステリックに叫んだ彼女は、そのまま顔を覆って泣き崩れしまった。

「悪いのは俺だけだ。彼女を巻き込むのは、筋違いだろ」

 苦し気に、それでも自分を守るために呟かれた白哉の声に、杏依の目頭が熱くなる。

「く……っ」

「白哉先生!」

 白哉は腕を抑えたまま倒れ込む。杏依は慌てて、警察と消防に通報した。
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