孤独な強面天才外科医は不自由な彼女を溺愛したい
 夜の久我総合病院。杏依は左手を胸に当てながら、運び込まれた白哉の無事を祈っていた。

 何事もありませんように。

 ドクドクと、嫌な音が胸を支配する。

 彼が杏依を守るために出したのは腕だ。もし動かなくなったら。腕が無くなったら。彼はもう、メスを握ることができない。
 それが、自分を守ったせいだと思ったら、杏依はやりきれない。

 どのくらいの時が過ぎただろう。しばらくして、診察室内に呼ばれた。

「白哉、先生……」

 左腕に包帯をぐるぐる巻にした白夜がそこに座っていて、杏依は胸をなでおろした。

「なんともないって」 

「良かった……」

 彼の声を聞いた瞬間、我慢していた涙が頬を伝った。

「あーあ、白哉、泣かせちゃった」

 ひょうきんな声が聞こえて、振り向く。碧人が楽しそうな笑みを浮かべていた。

「どうも、久我上白哉の担当医師、王子碧人です」

 白哉は心底嫌そうな顔をして、ふいっと横を向いた。
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