孤独な強面天才外科医は不自由な彼女を溺愛したい
 病院にやってきた警察に、白哉は「事件性はありません」の一点張りを通した。

 被害者がいなければ、警察は捜査もできない。こんな傷を負ってもなお、大熊氏の奥さんとのことを最初からなかったことにしたのは白哉らしい。

 病院を出て、生ぬるい夜風を浴びながら、杏依は白哉と並んで歩いていた。

「王子な、あいつは数少ない、気のおけないやつなんだよ」

「それはなんとなく分かります。仲良いですよね。同期なんでしたっけ?」

「ああ」

 病院裏の坂道に差し掛かる。白哉はそっと、杏依の左手を握った。

「……ありがとな」

「え?」

「生きていてくれて。俺を、救ってくれて」

「それは私のセリフです。私はあなたに救われた。それに、あなたが生きていてくれて、嬉しいです」

 暗闇でも分かる優しい笑顔に、心がくすぐったくなった。
 嬉しいのに、涙が溢れそうになる。いつの間に、こんなに好きになっていたのだろう。
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