両隣を真面目×不良な双子にはさまれた私は運命をうらんでます!

天音のおねだり


 天音くん、いったいなにを──。


「連絡先教えて」


 ……なーんだ。


 昨日したことに比べたらそんなことなんでもないよ……。


「いいよ……」

「マジ!? やったー!」


 天音くんは子供みたいにはしゃぎながらスマホを取り出す。パパっと操作すると画面をこちらに見せてきた。

 そこには彼のSNSのプロフィール画面が表示されていた。

 キレイな指だなー。すらっとした長い指……。

 スマホを持っている彼の指先につい目がいってしまう。


「これ、俺のリンスタグラム、検索して」


 リンスタ……。最近見たのいつだったっけ。


「フォロワーすごいね……」


 天音くんのプロフィール、そこには八万数千人というフォロワー数が表示されていた。

 こんなにたくさん天音くんのことを好きな人がいるんだ……。


「ここ半年でけっこう伸びたんだよね」


 さすがアイドル。フォロワーが数十人の私とは天と地の差だ。

 こうして喋ってると普通の男の子に見えるけど、やっぱりフツーとは違うキラキラした世界の人間なんだろう。どうして今二人で話してるのかよくわからなくなった。


 残りの昼休みは他愛もない会話をした。

 時間が経ってきたことで私はだんだんと冷静になり、少し喋れるようになってきた。


「おし、午後からレッスンあるから早退するわ」

「え、早退するの? ダメだよ、ちゃんと授業出ないと。退学になっちゃうよ」

「大丈夫、テストで赤点取らなきゃ進級はできっから」

「アイドルの仕事って……そんな忙しいの?」

「まー、それなりに。最近は週末つぶれたりする」

「平日は?」

「平日も毎日何かしらあるけど、昼間は空いてること多いな」

「今日は空いてたから学校来たの?」

「んー、てか、悠乃に会いたかったから?」


 そんな言葉をまっすぐ見つめながら言ってくる。

 どうしてこんなにまっすぐなの……。


「明日は来るの?」

「悠乃は……俺に来てほしい?」


 なに……? 急に子犬のような目で見つめる天音くん、ずるいなあ。


 でもこうして誰かと話せるのはとても嬉しい。素直にそう思いこくんとうなずいた。


「かわいいなー、じゃあ悠乃に会いになるべく学校来るようにする」

「なるべく?」

「ん、じゃあ……ごほーびくれるなら毎日でも来る」

「ご、ご褒美!? てか毎日学校に来るのはフツーだから!」


 フツー、その言葉を聞いた天音くんの表情が一瞬曇った気がした。


「そ、ごほーび、悠乃がおはようのキスしてくれるなら毎日これると思う」

「ムリムリムリ! てかいきなりそんなのダメ!」

「ん、じゃあおやすみのキスならいい?」

「じゃなくってぇ!」

「間接キスはもうしたしなあ……」


 う! 天音くんもしっかり意識してたんだ!


「ごめんごめん、悠乃のかわいい顔見てたらつい……まずはハグからか」

「そうじゃなくって! 体に触れたりするのはビックリするからダメ!」


 私がちょっと大きめな声を出したもんだから、天音くんは目を見開いた。


「そっかそっか。ごめんな。ちゃんと次から許可とるから」


 あれ……? 急に物分かりがよくなるの、困るなあ。


「学校来ない人には、きょ、許可はしません……」

「えー、じゃあ毎日学校来るように頑張ろっと。俺がいない間に奏空に()られちゃうかもしれないしな」

「なんで奏空くん?」

「あいつ、悠乃のこと気にしてたからさ」

 え、奏空くんが? 私のことを?



「二人で私の話したの?」

「んー、この前悠乃のこと知りたくて奏空に聞いてみたんだけど、あいつも悠乃に興味あるんだなってわかった。双子のカンってやつ」


 えええぇ! 奏空くんが私のことを……? どうしてだろう……? いっしょのクラスになったばかりでまだ話もおぼつかないのに。


「この前っていつのこと?」

「えと、一か月くらい? いや春休み前かな? まーいいじゃん、いつでも」


 天音くんははぐらかして行ってしまった。屋上に一人残された私は、お弁当箱を片づけて教室へ戻る。

 いつも一人で食べてるお昼と違って、今日は長く長く感じた。



 昼休みの天音くんとの時間を思い出して、午後の授業もあまり集中できなかった。


 ホームルームの終わり際。担任が私の名前を呼んだ。

「成田ー、放課後プリントの整理手伝ってくれるかー」

「……わかりましたー」

 私は部活もやってない。だから先生たちにこうしてたまに仕事の手伝いを頼まれる。

 日直でもないのに、まあいいけど。
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