両隣を真面目×不良な双子にはさまれた私は運命をうらんでます!

分岐点 天音side


「アイドルをしてるってことは、人を惹きつける魅力があるんだと思います。その努力もきっとたくさんしてるんじゃないかと……。そんな彼のいいところを見てあげてもいいんじゃないかと思うんです」


 あの日聞いた、彼女の言葉が忘れられなかった。


 春休み直前、俺こと諏訪野天音(すわのあまね)は担任から呼び出されて一週間ぶりに学校に来ていた。

 どうやら留年しそうってことらしいが、追試を受ければ進級できるようだ。詳しく話を聞くために担任の待つ相談室へ向かっていた。

 放課後の学校。夕焼けが差し込む廊下がエモくてたまに来るのも悪くないなと少し思った。

 他の生徒はほとんど帰ったのか、誰とも会わなくてよかった。俺がアイドルをしてるからって寄ってくる奴らがウザったくてしょうがない。


 はぁ、追試か、めんどくせー。まー、なんとかなるか……。


 俺は、もし留年するんなら学校はやめようと思ってる。今のグループの活動が軌道にのってきているところだし、来年はもっと仕事が増えるだろう。学校どころじゃなくなるかもしれない。

 この高校は割りと自由な校風だ。だからこそ入学した。ただそうは言っても、教師たちから疎まれてることに気が付いた。いちいち小言を言われるのがウザかった。


 相談室まで来ると扉が開いていて、中で誰かがしゃべっている声が聞こえた。


「手伝わせてしまって悪いな、成田。違うクラスなのに」

「いいえ、いつでも言ってください」


 中にいるのは俺の担任と知らない女子生徒だった。二人はプリントの整理をしている。


「勉強も忙しいだろ、お前もずっと学年二位キープしてたし。頑張ってるもんな」

「いえそんな、私なんて……みんな頑張ってますから」


 はぁ……めんどくせえ会話。

 エリートがよ。教師に気に入られようとゴマすってるところか。あの女子、違うクラスなのによくやるよな。

 扉に手をかけようとしたところで、知ってるヤツの話が聞こえてきたから入るのをやめた。


「一組の諏訪野って、わかるか? 学年一位の、優等生の」

「えっと、たしか生徒会長ですよね? ウワサはよく聞きます」


 まーた、奏空(かなた)の話かよ。ほんとアイツのこと好きだよなぁ、教師って。


「そうそう、うちのクラスにその弟がいるんだ。知ってるか?」

「いえ……」


 ほらな。案の定俺の話になる。俺たちはこうやっていつもいつも比べられる。


「こいつらが双子なんだが、これがまた似ても似つかなくてな。困ってんだ。一組の奏空は成績トップの生徒会長、一方で我が三組の天音は成績は悪いし学校にも来ない。アイドルかなんか知らんが指導しても聞きやしない」


 心の中でツバを吐き捨てる。


「ここだけの話な。先生たち何人かで校長に直談判したこともあるんだよ。いくらうちが自由な校風だからってあんな素行の悪いチャラチャラしたのを野放しにしてたら他の生徒に示しがつかないって。まあでも、世間ではけっこう人気があるってんで学校に置いとけば話題になるからいいだろうって校長にも説得されたよ」


 いっそやめてやろうかな。お前らのお望みどおりに。


 誰も俺のことなんて、見てるようで見てやしない。アイドルって仮面を外せば俺は単なる不良生徒なわけだ。


「実は今日ここに天音を呼び出してんだ。態度を改めるように言ってみるが……まあ変わらんだろうなあ」


 担任はせせら笑うようにつぶやいている。大人が人を見下す時にするあの顔。

 こんな話を聞いた後じゃ、まともに会話する気にならねえ。そう思って帰ろうとした時だった。


「先生、おこがましいことを言いますが──」
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