両隣を真面目×不良な双子にはさまれた私は運命をうらんでます!
一目惚れ 天音side
え、なんだ? 突然、聞こえてきた声に俺は思わず足を止めて振り返る。
教室の中をのぞくと、堂々と担任に立ち向かう女子生徒の後ろ姿が見えた。
「先生……。私たちは先生たちのことを信頼しています。だからこそ先生たちも生徒のことを信じてあげてほしいんです」
バカだろあいつ。
教師に意見して何の得がある? そこは愛想笑いするところだろ。俺の知ってるエリートってのは教師に逆らったりしない。そういうもんだろ。だからこそキライなはずなのに。
なのに──。
ぐっと目を見開いて前のめりになる。彼女の姿を目に焼き付けようと思った。
凛とした佇まい。艶のある長い黒髪を後ろで結っている。綺麗に整ったうなじ。
後ろ姿に思わず見惚れた。
「彼がどんな人なのか知りませんが、表面だけ見て判断するのはよくないと思います。アイドルをしてるってことは、人を惹きつける魅力があるんだと思います。その努力もきっとたくさんしてるんじゃないかと……。そんな彼のいいところをもう少し見てあげてもいいんじゃないかと思うんです……」
心臓が飛び跳ねた。なんだこれ……。
バカだろ……あいつ……。
そこで彼女はハッとして、慌てるように言った。
「あ、す、すみません。先生に意見するなんて……私」
それまで、呆然としていた担任も我に返ったように答える。
「いやぁ、はははっ。成田の言うとおりだな……たしかにそうだ……。まあ、先生はもちろんみんなのことを信じてるってことは忘れんといてくれよな」
「は、はい。もちろんです。私も先生たちのことは本当に信頼してます……」
場の雰囲気を自分で壊しておきながら、慌ててフォローしてる彼女に俺はあきれた。
あいつ、最初見た時は教師に意見するような感じには見えなかった。でもそれって俺自身も表面だけで人を判断してたってことなんだよな。
そうこうしてるうちに作業が終わったらしく、彼女が相談室から出てきた。
ヤバい、って思ったが、とっさに隠れることは出来なかった。
そして、俺は彼女と思いっきり鉢合わせた。
とても澄んだきれいな瞳……。その表情は、ほわりと柔らかい雰囲気に包まれながらも、媚びない強さをまとっていた。
目が合った瞬間、自分の顔が、カーっと熱くなるのがわかった。とっさに目をそらしてしまう。
時間にして一秒もない間の出来事だった。彼女は俺と目が合っても顔色ひとつ変えないでいた。
そして、スタスタと行ってしまった。
きまずっ、俺は何を焦ってんだ? あの女、たぶん俺のことを知らない。うじゃうじゃ寄ってくる連中とはまるで違う雰囲気……。
だから、うぬぼれでもなんでもなく、自分のことを知ってほしいって思ったし、逆に向こうのことも知りたいと思った。
「お、なんだ諏訪野、来てたのか」
その時、担任が出てきて見つかってしまった。
「さっそく話をしよう。お前自身の今後のことだ。先生は信じてるからな」
こいつよくもまあ、ぬけぬけと。俺は笑いをこらえてうつむいた。
今後のこと……か。
俺自身、自分のことなんてわかっちゃいない。今後どうしたいのかもわかんねえ。
でもこれだけは確実に思った。
学校はまだやめない。
あいつともっといっしょにいたいから──。