旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
 古城の三階は、国王関係者の私的な部屋が並んでいるプライベートゾーンになっており、この時間帯であれば、族長は部屋にいるだろう。朝方から昼前にかけては、厩舎にいる。
 アーネストが、ゆっくりと扉の叩き鐘を叩き付けると「アーネストか? 入ってこい」と声があった。名乗ったわけでもないのに、叩き方だけでアーネストであると判断したのだ。
「失礼します」
「どうした? とうとうボクちゃんのお守りに、嫌気がさしたか? だが、ダスティン一人では、まだまだ不安なところがある。隙を見せれば、大国は攻めてくるだろうし、内部からやられることも」
「親父!」
「なんだ、ボクちゃんもいたのか」
 隠居爺と呼ばれている族長であるが、ダスティンにとっては頭の上がらない人物でもある。
「二人そろってどうした」
 座れ、とソファを顎でしゃくって促す。アーネストとダスティンは、族長の向かい側に並んで座った。
「母さんは?」
「外に出てる」
 族長時代の生活が抜けきらない二人は、まさしく自由人である。
「親父に相談したいことがある」
「ほぅほぅ。一国の主が、こんな爺に相談とはな」
 口調は軽いのに視線が鋭いのは、この先の話を読んでいるからだろう。
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