旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
 どちらから口づけを迫ったのか、わからない。オレリアからかもしれないし、彼から求められたかもしれない。
 初めて重ねた彼の唇は、やわらかくてひんやりとしていた。外にいたから、夜風で体温を奪われたのだろう。
 オレリアの身体を弄るアーネストの手つきはやさしく、触れられてもまったく嫌悪感はなかった。どちらかといえば心地よく、もっと触ってほしい。
 長い口づけで息が苦しくなり、呼吸を求めるために軽く唇を開きかけると、その隙を狙って彼の舌が口腔内に侵入してきた。
 突然のできごとに驚き身体を引くが、逃げるなとでも言うかのように、頭の後ろを押さえ込まれた。
 結婚式の誓いの口づけは額に落とされただけ。
 初めて唇と唇を合わせたのに、それはとても深くて熱い。
 苦しくなって顔を背けようとしても、彼の力強い手はオレリアの頭を解放しない。
 もっと深く口づけをするためにアーネストが唇を離した瞬間に息をつくと、鼻から抜けるような甘ったるい声が漏れた。
「……ふぁっ……ん」
 くちゅりくちゅりと唾液の絡まる音が、頭にまで響く。
 恋い焦がれた相手との口づけが、身体が溶け出すほど気持ちのよいものとは知らなかった。腰が抜けそうになる。
「寝室はどこだ」
 熱のこもる声で低く問われ、オレリアは「あっち」と一つの扉を指さした。
「俺には……妻がいる。それを伝えないと、フェアではない気がした……」
 こんなところでも、彼は律儀である。
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