旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
 その妻はわたしです、と言いたかったけれど、ぐっと堪えた。
「そのうえで、もう一度だけ聞く。本当にいいんだな?」
 潤んだ瞳で見下ろされ、コクリと頷いた。
 本音をいえばオレリアとして抱かれたい。けれども彼は、オレリアと別れたがっている。この場にいる女性がオレリアと知ったら、きっと彼は抱いてくれない。
 アーネストを騙すことに、チクリと胸が痛んだ。
 だけど彼と別れたとしてもこれを思い出として胸に刻んで生きていける。アーネストを好きだった気持ちは誇れるべき想い。
「あとから駄目だと言われても、やめられないからな。後悔、するなよ……」
「しません」
 答えるや否や、抱きかかえられて寝室へと連れていかれる。
 どさりと寝台におろされ、彼は手早く服を脱ぐ。衣擦れの音がする。真っ暗でよく見えないが、見えないほうがいいのかもしれない。少しずつ目が慣れてくる。
 目の前に影が迫った。
 恐ろしくなって手を伸ばせば、硬い人肌に触れた。
「おい」
「ひゃっ……ご、ごめんなさい。つい、珍しくて……」
 これが男性の胸板。暗闇に慣れた目によって、アーネストの胸元をわさわさと触れている自身の手が見えた。
「お前も脱げ。いや、俺が脱がせよう」
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