旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
第十六話
 アーネストは深く項垂れていた。
 目の前には、例の夜間警備強化に関する資料が山積みになっている。素案を出してきたジョアンは、さらに夜間警備における予算案まで提示してきたのだ。
『閣下、こちらが人件費。それから、設備費ですね。あとは、どの地区にどれだけの人を割り当てるか。その比率を全部で三パターン出してみました。どれを採用しても費用対効果は同等ですので、これは会議にかけて、他のうま味が多いものを採用してもらうのがいいかな~なんて思ってます』
 途中まではよかったのに、最後が残念だった。そこだけ減点と強くジョアンに言うと、不満そうに唇を尖らせて資料をどさりと置いて出ていった。
 そして彼の資料に目を通し始めたのだが、途中でその手が止まった。
 原因は間違いなくリリーにある。食堂で給仕として働くミルコ族の娘。
 彼女のほうから迫られ、身体の関係をもってしまった。そこにアーネスト自身の意思がなかったと言えば嘘になる。
 オレリアと結婚しガイロにやってきてからというもの、女は抱いていない。それは自身の立場を考えてのうえ。閨の場はどうしても無防備になる。いっときの享楽によって、命を落とすなんてことがあっては馬鹿らしい。
 しかしアーネストだって聖人君子ではない。そんなときは、自身でちょいちょいと処理をしていた。
 だからこそ、彼女との関係はまずかった。オレリアを裏切った。いや、彼女を裏切ったのは今に始まったことではない。恨まれても仕方ないことを隠している。
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