旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
(やはり、首都まで行くべきか……直接会って、話をして、きっぱりと別れる……)
 ここ数日考えていたのは、どうやってオレリアと別れるかであった。
 不貞を働いたのはアーネストであって、オレリアに落ち度はない。
「……はぁ」
 自然とため息も多くなる。ここにジョアンがいなくてよかった。ため息をつくたびに「辛気くさい」と冷たい視線を向けてくる。
 もう一つ、ため息が多くなった理由がある。
 例の食堂でリリーの姿を見なくなった。それはもちろん、あの日を境にして。
 それもアーネストを悩ませている原因の一つであった。
(勲章……あの家に落としたのか……)
 アーネストの軍服につけられていた勲章の一つがなくなっていた。あってもなくても、今のところさほど影響はない。式典までになんとかすればいいのだが、その式典も近く、予定されているものはない。
 ただ、それを彼女の家にあるかどうかも確認したかった。だけど、リリーの姿が見えない。
 客と給仕の関係であるのに「リリーはどうした?」だなんて、他の人に聞けるわけがない。あのジョアンでさえ「最近、リリーさん、見かけないんですよね~。どうしたんでしょう?」と言っており、さすがに理由までは知らないようだった。
 あの日をきっかけに姿を消したとなれば、その理由に自分がかかわっているのではないかと思えてくる。
「……はぁ……」
 何度目かわからないため息をついた。
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