旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
「閣下! 辛気くさい。やめてください。僕の幸せが逃げるじゃないですか」
「なんだ、いたのか?」
「いたのか、って……ひどい……」
 ジョアンは顔の前で手を大げさに振って、そこに漂う何かを散らすような仕草を見せる。
「僕、きちんとノックして部屋に入りましたからね。それに対して、閣下は『入れ』って言いましたからね」
 ジョアンにそう言われても、実はアーネストに心当たりはなかった。オレリアとリリーのことを考えて、心ここにあらずだったのかもしれない。
「それで、なんの用だ? お前がおいていった書類は、今、確認している最中だ」
「そうは見えませんけどね。まぁ、いいです」
 コホンと、ジョアンはわざとらしく咳払いをした。その様子を、アーネストは不審者を見るかのような冷たい視線を送る。
「閣下……お客様が来ております。お会いになりますか? 事前の約束は取り付けていないとのことです。つまり、アポなしです」
「……客、だと?」
 たいてい先触れを出してから訪れるというのに、突然の訪問者とはいったい誰なのか。
「誰だ? 名前は聞いたのか?」
「えぇ……聞いたのですが、名乗らなくてですね。名前を言ったら、絶対に閣下が会ってくれないからだと、彼女は言ってました」
 彼女とジョアンが口にした時点で、客人が女性であるのはわかった。
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