旦那さま、お会いできて光栄です~12年間放置された妻ですが、絶対に離縁はいたしません!
 名前を聞いたら逃げたくなるような女性――心当たりは二人。マルガレットかシャトランだろう。アーネストはあの二人に頭があがらない。十二年間、会っていなくても、本質がかわるわけでもないので、やはり頭はあがらないままである。
 彼女たちであれば、先触れなく訪れるのもわかる。だって、知っていたらアーネストは間違いなく逃げていた。
「……わかった。通せ……」
 はぁと大きくため息をついたところで、ジョアンが目を細くして睨んできた。
 彼女たちがここに来たのは、間違いなくオレリアとのことだろう。別れる気持ちに変わりはないことを、強く言わなければならない。最悪、他に好きな女性ができたとかなんとか言って、その彼女と恋仲であると匂わせればいい。そうなると、間違いなくリリーを巻き込むだろうから、やはりリリーには会って話をしておきたかった。
 ――コンコンコンコン。
 扉を叩く音が、部屋中に響いた気がした。
「失礼します。閣下、お客様です」
 対外用の顔を作ったジョアンが、一人の女性を連れてきた。
 鮮やかな黄色のドレスをまとい、帽子を深くかぶっている。顔と髪を隠しているのは、すぐさまアーネストに素性を知られないようにとしているからだろう。
「案内、ありがとう」
 女性の明るい声で、ジョアンは黙って下がる。
(誰だ――)
 その声に聞き覚えがあるかもしれないが、それがピンとこない。
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